SOMA SATO

「Physis」

2023/サイズ可変/樹脂、木(杉)

聖遺物や仏舎利のように、様々な宗教で見受けられる遺骨などを保管する様式から着想し、岐阜県瑞浪市大湫町の神明神社より持ち帰った杉を封入した。ご神木として古くから地域のシンボルであったその大杉は、2020年7月11日の大雨の夜に倒木した。

Physisは、「Nature(自然)」と訳されるギリシャ語で、「Logos(言葉、論理)」や「Nomos(慣習、掟)」など人間的な営みの反対にあるものとされていた。同語から派生した「Physics(物理)」が17世紀に台頭して以降、自然の流れや変容を体感することから離れ、実証的に説明する科学的な態度が色濃くなった。

風土に根ざした信仰対象としての文化的まなざしと、物質としての科学的なまなざしのはざまで、対象に人々の記憶や慣習といった目に見えないものが流れ込み、その対象と我々との間に新たな関係性が結ばれる。

赤れんが テラス 1F 北2西4

佐藤壮馬

SOMA SATO

1985年北海道生まれ。モノやイメージ、個や社会に内在する自明ではないものや逃れられないものとの 関係性について考察し、多分野にまたがるアプローチを写真・映像・彫刻・インスタレーションなどのメ ディアに反映させている。東京、ロンドンでの活動を経て、現在は札幌を拠点に活動。

〈主な活動歴〉

  • 「第23回文化庁メディア芸術祭アート部門審査委員会推薦作品選出」(2020)
  • 「KyotoSteam2022」(京都市京セラ美術館)
  • 「第16回shiseido art egg賞グランプリ」(資生堂ギャラリー、東京、2023)などがある。

支援: 令和2年度メディア芸術クリエイター育成支援事業

協力: 株式会社 資生堂, CG-ARTS, 大湫町コミュニティー推進協議会

助成: 令和4年度 札幌市文化芸術創造活動支援事業 (Sapporo Art Index)

Q&A

作品を作るときの源はなんでしょうか?

予期していなかった偶然性が新たな可能性をひらいてくれます。度重なる美しき失敗や、模索する中で垣間見える状況など、そこにあるかもしれない小さな何かが、とても大切なものだと思っています。

街中で作品を展示するにあたり、意識したり、気にかけたことことはなんでしょうか?

建物内に流れる日常の空間から、サッポロパラレルミュージアムの空間に変容するということです。そして、そこにある作品に対峙した時の一瞬を生むことです。既存の環境に作品が入り込むことで日常に違和感が生まれ、鑑賞者の方々がその空間でそれぞれの関係性を結んでいくような場所にしようと心がけました。そこで想起されるご自身の記憶や感情、その時その場でいだく感覚の一つ一つが尊いものだと思っています。普段何気なく通り過ぎる場所が、作品があることでどのように変わるのか、何度も想像をめぐらせました。

最近、気になっていることは何ですか?

北海道の冬は厳しくて大変なのに、なぜかとても魅かれます。気候と季節の周期が与えてくれる心や体への影響なのか、雪風景の圧倒的な美しさなのかはわかりませんが、一年を通して、冬を越すということがとても大切に思えています。その風土に流れる時間と、その軌跡は北海道で生まれ育った私に刻まれているものでもありますが、まだまだ知らないことがたくさんあります。とりまく環境と、すでにそこにある歴史・文化は、自身でもわからずに私たちに宿っていて、科学と文化のあいだでそれらをどのように見たら良いのかが、最近気になっています。

今後、挑戦してみたいことを教えてください。

美術の実践も含まれますが、人間の営みをどのように位置付けたらよいのかを考え続けていきたいです。科学技術が日々発展し、これまでわからなかったことの解明や、できなかったことが実現される可能性に期待が膨らむ一方で、何かを信じるという心の問題についてなど、まだまだわからないことがたくさんあります。大きな潮流の中にある私たち個人や社会が何かを信じ、行うことで生じる倫理的な問題は、今は自明ではないと思っています。自らの位置を確認しながら、模索する中で見えてくる小さな発見を、今、現代にあるメディアや道具を用いて、今後も表現し続けることに挑戦したいです。